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supernova 1

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2005-12-24

細切れに少しずつアップ。

第一回は予告編。
場面単位で適当に切っていきますが、量が貯まったら前回と同じくHTML化していくので、一気にお読みになりたい場合にはそちらで。

タイトルは『supernova』。
『光について』の続編になります。
長さは『光』と大体同じくらいになる予定。なるべく速いペースで書けたらいいなぁ。

さらに、どうでもいいことですが、HNを少し変えます。
笙司眞一 → 笙司眞人
読み方はかわらず「しょうじまひと」ですが、漢字の最後をからへ。
本当にどうでもいいですね・・・ OTL





 supernova



 わたしの弟は魅力的だ。閲覧室の奥、壁際に腰を下ろしてうつむき加減に本を読む姿は、贔屓目を抜きにしても、他人を惹きつける。同僚の彩ちゃんが冗談めかして「紹介してくれ」と頼むのもうなずける。
 わたしは鼻が高い。弟が好意的な視線を浴びることに不満なんてない。だけど、彼が魅力的に見えるときというのは、例外なく、彼が苦しんでいるときなのだ。
 
 わたしの弟は、不幸なときほど光って見える。


 



 わたしの弟、明は、たぶん今ひどく苦しんでいる。子供から大人へと成長できなくて苦しんでいる。彼には将来がない。はっきり言ってしまえば、彼には小説を書く才能なんてない。わたしはいつも、彼のほとんど唯一の読者だが、楽しませてもらったことは一度もない。わたしは明の意気を挫いてしまうのが恐ろしくて、いつも評価を保留する。だけど、明は決して馬鹿ではない。わたしの反応が判を押したように中途半端な称賛にしかならないことに、既に気がついている。だから近頃は見せてくれなくなった。そして毎日、淡々と紙を消費する。
 そんな彼がとても魅力的だ。目の前で萎れていく朝顔に似ている。

 彼は今までも滅多に笑顔を見せなかったけれど、ここ数ヶ月、いよいよ仏頂面が酷くなっている。わたしを抱いても無口だ。いつも何かを恐れていて、視線が一定になることもない。でも、わたしには分かっていた。いつかこんな日が来ることは容易に想像がついた。
 生きていくのは辛い。目には見えない重荷のようなものが両肩にのしかかっている。

 明は定職についていない。それどころか、就職活動すらしていないようだ。学生時代と変わらず、アルバイトをして細々と収入は得ているが、生活費はほとんどわたしが出している。生活は苦しい。

 わたしたちの日々は美しくない。輝いてもいない。彼の部屋、引き戸をあけるのが怖い日もある。安タバコの煙が渦を巻いて、太陽の光さえも減衰させてしまう。机の上につっ伏した彼の肩はいつ見ても小刻みに震えていて、わたしが声を掛けても、聞こえている風でさえない。彼は震えながら眠っている。
 きっと彼は、わたしがそんな自分の姿を目撃していることに気がついてさえいないだろう。

 こうなることは分かっていた。端的に言って、わたしの弟は、生まれつき情緒が安定しないのだ。その上とても虚弱だ。







 1 自由







 自由という言葉は自立できない。独り立ちができない、常に他の言葉を必要とする、哀れな言葉だ。
 自由は常に「他の何かからの」自由でなければならない。




 高江明はそこまで書くと、手に握る万年筆を大儀そうに放り投げてゆっくり肩の辺りを叩いた。既に時刻は夕方五時を回っている。彼は緩慢な手つきで机一面に広げた紙片を纏め、椅子を引き席を立つ。仕事の時間だった。
 彼の立ち姿は枯れ木に似ていた。擦り切れたコーデュロイのズボンの上に伸びた白いワイシャツの幹、そしてその先に咲いた頭の、黒く不作法に垂れ下がる長髪の房は、この木がひどく疲弊していることを見る者に伝えるかもしれない。大きな二つの瞳を収める眼窩は、その仕事にいささかウンザリしているらしい。黒目の周りに絡みつく赤い網状の毛細血管と、寒さに割れた唇から滲む血の色はよく似ていた。どちらも金属質で、変に重い。

「じゃあ、行くね」

 閲覧室の扉を抜けて貸出カウンターの前で足を止めると、彼は小声でそう呟いた。

「今日は早めに、ね。お鍋にするから」

 カウンタの向こうに腰掛けた女が、これも囁くように返した。深い紺のカーディガンに溶け出した髪がゆるく波打って、彼女の精緻な顔面造形を包んでいた。

「なるべくそうする。遅くなったら食べてて」
「ええ」

 女はそれきり口を閉じて、膝に置いた読みさしの本に目を落とす。図書館はおしゃべりを楽しむ場ではないことを、もう何年も勤めている彼女はよくわかっていた。一見すれば厳然たる拒否の徴にも思える彼女の態度に、しかし明はなにも感じることがない。長く一緒に暮らしている二人にとって、素っ気ない対応はむしろ常態と言えた。

 彼は微かにうなずくと、踵を返してエントランスの自動ドアを潜る。
 建物の外は風が巻いて、羽織った薄手のコートを派手に散らした。空はすべて暗い。
 






以下続



 


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Comment

no name : 2005-12-24(Sat) 22:21 URL edit
期待してます
南条 : 2005-12-24(Sat) 23:25 URL edit
わ、更新されてますね~!
津村さんの方も動き出されたご様子ですし、また楽しい季節が戻ってきそうで嬉しいです(笑
今から読ませて頂きます、頑張って下さいね。
狐紺 : 2006-01-11(Wed) 20:47 URL edit
あぁ、またあの姉弟のお話が読めるんですね・・・!
期待してます^^
笙司眞人 : 2006-01-13(Fri) 04:47 URL edit
みなさんどうもありがとうございます!
お返事が遅れてしまい申し訳ありません。
今年の風邪は地味にキツイです OTL
みなさんもご自愛くださいませ。
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