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光について 3

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2004-12-21

光について

今までのように50枚区切りではなく、場面区切りでちょくちょく出していくことにする。
会話ばっかりの場面って書くの恐い。
話のノリを考えて、心内描写はスタンダードな方式で書いてみる。

地の文比率30%減(当社比)でお送りします。

取りあえず、登場人物の漢字が読めないと言う苦情があったので、以下、

登場人物読み方一覧



天嵩 灯 <あまがさあかり> 三年六組 



高江 明 <たかえあきら> 二年七組



天嵩 匡子 <あまがさきょうこ> 灯と明の母親



天嵩 倖 <あまがさゆき> 匡子の妹で、灯と明の叔母



天嵩 征 <あまがさただし> 灯と明の母方の祖父



高江 勇次 <たかえゆうじ> 灯と明の父親 (死亡)



熱田 静 <あつたしずか> 二年七組 明の同級生



坂下 孝太郎 <さかしたこうたろう> 二年七組 明の同級生



深谷 美希 <ふかやみき> 三年六組 灯の同級生





 
 
 
 県立栢高校では、生徒が履く上履きのつま先に付いたゴムの色が違う。一年生は緑、二年生は赤、三年生は黄。外見では分からない学年をゴムの色で見分けられるようになっていた。
 二年生のクラスで占められている校舎の二階を、2ペアの黄色が歩いていく。その様は足下しか差異がないにも関わらず、妙に浮き上がって見えた。

「ねえねえ灯さま。わたしたち凄く目立ってない?」
「だから言ったじゃない。美希は付き合ってくれなくてもいいのに」

 灯は何故か様づけで呼ばれている。敬意を込めたものではない。ただの渾名である。世界史の資料集に載っている、どこかの王女に容姿が似ていると、今も灯の隣を歩く少女が戯れに付けた敬称がそのまま習慣になってしまった。

「でも思った以上に騒ぎにならないね。もっとこう、学園のアイドルが! みたいなの求めてたのになぁ」
「馬鹿言わないで。そんなことになったらわたし、断固登校拒否するから」
「みんなちらちら見てるし、興味はあるみたいだけどねぇ」

 深谷美希は右手に持った菓子パンの袋を宙に放り投げては左手で受ける。
 女子テニス部に所属する彼女はボールを使った球技が巧い。綺麗なポニーテールが身体の律動とともに揺れて、コートをカッターで切り分けるようにサーブが決まる。女子にしては高い身長を生かしたフラットショットは、力強さよりも軽やかさを見る者に印象づける。贅肉の欠片もない素足と引き締まった顎のライン、そして涼やかな切れ長の瞳とプレースタイルが相まって、男子女子問わず、一部の生徒にはよく知られていた。

「灯さまは部活やってないから、下級生と接点ないじゃん。だから珍しいってのもある。ほら、はぐれメタルみたいなもんよ」
「なによ、はぐれメタルって。生き物なの?」
「ゲームゲーム。ファミコンの。灯さまやんないの?」
「ファミコン持ってないわ」
「そっかぁ。男兄弟いないと持ってないかもね。うちはほら、兄貴いるから。お下がりなんだ」

 二人は校舎の端、一組の教室の側に作られた西階段から下りて、七組までの道のりを歩いていく。灯は脇目もふらず堂々と歩を進めるが、いつもより若干硬い口調から押し隠した緊張が透けて見えた。

「わたしもそういうのなら持ってるわよ。プラモデル」
「プラモぉ~?」
「ええ。飛行機のやつ」
「プラモ好きなの? 灯さまがプラモってすっごい面白いんだけど」
「そういうわけじゃないわ。でも…大事にしてるの」

 好奇心を湛えた美希の瞳が収縮した。快活で一面悪のりの過ぎる美希だが、口を突っ込んでいい場所か不味い場所かを見分ける術には長けていた。混ぜっ返すのは不味い。灯の口ぶりからそう悟った彼女は、素早く対象を切り替えた。

「あ、ちょっといいかな? 七組に高江くんっている?」

 灯はいざ口を開こうとした矢先、美希に機先を制される。少し困ったように眉をひそめて、友人が話しかけた二年生の少女をぼんやりと見た。左胸に付けた名札には『二年七組 吉住紗綾』と書かれている。大きな丸い瞳が印象的な可愛い少女だった。

「はい。高江くん居ますよ。呼びましょうか?」
「ううん。どれが高江くんかだけ教えて」

 美希の言葉に少女は軽く頷くと、教室の一番奥、窓際に固まった三人組を指さした。

「あそこでおにぎり食べてるのが高江くんですけど…。なにかあったんですか?」

 ちらちらと自分に視線を流しながら、申し訳なさそうにそう尋ねた少女が、好奇心を刺激されているのは当然だろうと思いながらも、灯はいちいち説明する気にはなれなかった。

「大したことじゃないよ。ありがとうね」

 灯の内心を知って知らずか、美希は素っ気なく礼をいうと教室のドアを開けた。

 教室に残っていた生徒達の視線が一斉に動く。灯は皮膚の表面をちくちく突き刺すたくさんのそれを受け流す自信があった。人の注目を集めることには慣れていた。決して好きではなかったが、まだ短い人生の大半をそうして過ごした人間として、ある程度の心構えは出来ていた。
 彼女はゆっくりと室内に踏み入る。腰のところから、背筋は弓なりなほどにピンと伸びて、平素気品のようなものを感じさせる物腰が更に強調されていた。、
 傍らを歩く灯を観察しながら、美希は思った。

(この子、本当に『灯さま』だわ)

 謹厳実直というわけでもない。下らない世話話にも付き合うし、冗談だって言う。お高くとまっているわけでは決してない。だからその印象は皮相なもの。分かっていながらも、美希は自分の心に起こった印象を希釈することができなかったのは、強烈な意思を秘めたその横顔があまりにも美しかったかもしれない。







 テーブルの上、鼻先に置かれた矩形の箱は、鮮やかなブルーの布地にくるまれて、明に適切な対応を要求していた。陰に陽に自分を注視する無数の瞳に、彼は心底辟易する。子供の頃から注目を浴びることだけは避け続けてきた。目立つことは性分に合わない。それは危険な割に配当の少ない一種の賭けであった。

(最悪だぞ、まったく)

 少年の視界に映った女は、立ち居振る舞いも堂々と、彼の事情などお構いなしに見える。結局この場を上手く――目立たないように――切り抜ける義務を負うのは彼で、女は常にリスクを負わない。
 それこそが、明と灯の間にある大きな齟齬の一端であったかもしれない。

「ええっと、こんにちわ」
「ええ、こんにちわ。高江くん」
「どうしたんですか? 天嵩先輩」
「今朝の続きよ」

 今朝の会話。彼は朝餉に誘われ、それを断った。話はそこで終わっていたはずで、続くものなどなにもない。明確な拒絶の後にもかかわらず、今こうして灯は弁当を持ってきた。ならば彼女の行為が意味するところは何だろう。
 
(自分に弟がいることに、最近気がづいたらしい)

 決して口に出せない皮肉を、心の裡で呟いてみる。 
 この押しつけがましさ。この傍若無人。十年弱閑却に伏して、完全に千切れてしまった関係の糸を、弁当一つで結び直せると思っている。明の苛立ちは募る。それは拒絶されることを計算に入れない――入れる必要のない人間だけに許された傲慢だと明は思った。

(この人は相手の事情なんて考えない)

 しかし不機嫌な態度を露わにしてはならない。なにかあった場合、同情が集まるのは彼女に対してで、悪役を拝命するのは明なのだ。

「今朝? なにかありましたっけ?」

 笑顔で当たり障りのない会話を続けながら、自発的にご退場願う。その線で切り抜けようと彼が決心した矢先、隣で呆然と成り行きを見守っていた静が突然しゃべりだした。

「なに高江! 天嵩先輩と知り合いなの?! マジで? ……これは夢なの?!」

 大げさに天を仰ぎ、芝居めいた台詞を語り出した静を、ちらりと灯が横目で見た。

「あり得ないでしょ! あんた弱みとか握ってんじゃないでしょうね! 最低! 天嵩先輩とかがあんたと知り合いとかあり得ないから! もう月とすっぽん、猫に小判、超釣り合ってないし!」

 熱田工廠謹製のマシンガンは快調に弾丸をばらまき続ける。口を挟む隙を見いだせず、浮いた視線が灯のそれと出会う。

(あ、これヤバイ…)

 顔面の筋肉はいまだに笑みと呼べる表情を保持しようと必死の努力を続けていたが、への字に曲がりつつある口元が少女の内心を雄弁に伝えていた。

「あんた分かってんのか、って言ってんだけどっ! 高江っ。天嵩先輩は超可愛い。あんたは超キモイ。オーケー? あんた『いいとも』の『不釣り合いカップルコンテスト』とか出る気でしょ! 大体…」

 不意に灯の表情から力みがすっと消えて、代わりに柔らかい笑みが浮かび上がる。しかしそれは静に称賛されたために起こった変化ではない。明が感じる得体の知れない寒気が、目の前でにこにこと笑い続ける灯を源泉とするものであることは自明だった。

「熱田っ。そういうのじゃないから!」
「じゃあどういうのなんよ!」
「おれ、新聞配ってるだろ。毎朝。配達コースに天嵩先輩の家があんだよ。で、たまたま門のところで出くわして話しただけ! オーケー?」
「オ、オーケー…」

 普段声を荒げることがない明の予想外に強い口調に、流石の静も口を閉じた。ついさっきまでの威勢はどこへやら、しょげて俯く彼女の姿が明に自分の失敗を気づかせる。

「まあ、その、分かってくれればいいんだって。ほんとに先輩とは関係ないから。だから…」
「あら、関係ないは酷いんじゃないかしら?」

 今度嘴を挟むのは灯。しかも微量の媚態すら含まれている。収束に向っていた火事にガソリンを缶ごと放り込む台詞。明は一瞬血が頭頂に上るのを感じる。しかし態度に出すことはしない。一分一秒この馬鹿げた会話が長引くたびに、彼、高江明は耳目を集める存在として大きくなる。それはつまり、排除される可能性を胎むということだった。

「取りあえず、ここ出ましょう。お願いしますよ」

 咄嗟に明は愛想笑いを浮かべていた。灯としても、出来れば静かなところで会話をしたいのだから、反対する理由はなかった。首肯と同時に、美希を伴って教室を後にする。
 
「ふぅ」

 大きなため息を一つ。明の愛想笑いは泣き笑いに転化する一歩手前で止まっていた。

「明も大変だな」
「ほんと、勘弁して欲しいんだけど」

 孝太郎の揶揄には毒気がない。むしろ心底気の毒がっているらしく、彼は明の肩を軽く叩いた。

「でもまぁ、おまえも興味なさそうな顔して隅に置けないこった」
「馬鹿。先輩のことはそんなんじゃないって」
「俺は先輩の話をしてるんじゃないんだけどな」

 普段韜晦するような言葉は吐かない孝太郎の煮え切らない発言に、明は戸惑う。

「わけわかんないよ」

 はっきり言え。そう言外に匂わせたつもりだったが、孝太郎はあっさり彼の要求をいなした。
 
「んんー。ほら、早く行けよ。戦果報告よろしく」
「了解」

 一方、静はすっかり元気をなくして、自分の席に大人しく座りこんでいた。椅子を引いて身体を丸める様は、朝から晩まで喋り散らすことを生き甲斐にしている少女に似つかわしくない。恋が終わろうが世界が終わろうが喚き散らして止まらない。親に付けられた『静』なる名前と正反対の、騒々しさが霧散したことに、明は暗澹とした気分になる。

――これでまた一人、敵を作ったというわけだ。

 そんなことを考えながら、明は教室を後にした。


<次の場面へ続く>
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Comment

南条 : 2004-12-21(Tue) 14:40 URL edit
こんにちは、お邪魔しますね。
いきなりですけども、読んでて楽しいです。
キャラがとても生き生きとしてますね~。
明には、もうどんどん姉道にはまっていって欲しいものです(笑
彼は明るそうに見えてその実、思考がマイナスから始まりますよね。灰の剣とかに出ても違和感なさそう(笑
先日に紹介されていた、「姉×弟」系な一次創作をただ今捜索中です。見つかったら読み耽りまくりたいと思います。
笙司眞一 : 2004-12-24(Fri) 17:51 URL edit
>南条さん
どうもですー。
明のマイナス思考は、やっぱり作者の好みかもしれません。でも、マイナス一辺倒じゃなく、出来うる限り現実的な人間を描ければいいなぁ、と。
姉×弟小説は、某巨大掲示板でスレッド連載なされていたものです。先頃完結した模様。18禁作品のため、アドレスを出せずに申し訳ありません。
タイトルは『至上の鎖』といいますので、検索してみて下さいませ。お薦めです。
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