fc2ブログ

ガンダム的ローレライ

Home > 2004-12 /  > This Entry [com : 0][Tb : 0]

2004-12-08

▼ 終戦のローレライ 福井晴敏

 上下巻読み終わったので少し感想を書いてみる。
 
 太平洋戦争最末期、ドイツ軍が開発した新型兵器ローレライが潜水艦で日本に輸送されてくる。ローレライを奪い取ろうとするアメリカ軍。ローレライを使って終戦の形態を変えようと試みる日本海軍。そして背後で暗躍する日米双方の組織。これらのプレーヤーが様々に絡まり合いながら物語は進行する。
 分量も充分。2冊並べると広辞苑くらいにはなるし、紙面も二段組みでお得。装丁の樋口真嗣は新世紀エヴァンゲリオンで絵コンテを切った人。鮮やかな空の青、海の青が印象的。

 物語のテーマは幾つかあるらしい。戦前と戦後を対比した世代論でもあり、戦争と平和、個人と集団という大きな対立項を描きたかったのかもしれない。詳しく触れるには粗筋を書いてしまう必要があるのでスルーするけれど、読み終えて直後の印象としては、そのそれぞれに掘り下げの弱さがあったように思う。どれも描こうとして、どれも上滑っている。そんな感じがする。特に現代と戦中の対比は浅薄で、筋のおもしろみがなければ読み飛ばされてもしかたないようなものだった。

 この作品、あてがわれた舞台と設定のために、どうも「テーマ」に焦点を当ててしまいたくなるけれど、本質的に「テーマ」は二義的なモノに過ぎない。
 綿密な戦闘描写、ありがちだけど、しっかり描かれたキャラクタの背景を見ていると、ライトノベルには分類できないし、かといって文芸作品というには筋もキャラクタも典型的すぎる。
 ではなんだろう。どうにもぴったり捉えられずに色々考えていたら、ふと気が付いた。

これ、ガンダムじゃん・・・。

 戦争に翻弄されながら、「前向きに」戦争へと参加していく少年少女。軍や国といった大きな枷に縛られながらも、子供達が教えてくれた、皮肉っぽく言えば「大切な何か」を守るために命を賭ける大人達。
 一方で組織と切っても切れない立場にありながら、組織や命令ではない、個人的感情から発する「使命」「目標」のために生きようとする人々。

 連帯(過分に理想的な)と友情で一丸となった一隻の潜水艦が、カタストロフを避けるために孤軍奮闘する。もちろん作者は、潜水艦の背後に存在する世界の動き、様々な人々の行動を描こうと努力しているけれど、やっぱり比重は「高潔な賊軍」に傾いている。

 ファーストガンダムからZZまで、主人公は、一隻の戦艦という「家族」の中で成長しながら、個人では対し得ないはずの巨大な組織に立ち向かう。そんなガンダムシリーズの粗筋、キャラクタの配置を思い返すにつけ、この『ローレライ』は非常にガンダム的なお話なのだと気が付いた。

 ぼくはガンダムを深く語れるほど見ているわけではない(初代から SEED まで、G
を除いて一応全て見たが)から、広大なガンダム世界の持つ特徴を全部挙げることは出来ない。しかし、流し見た上での率直な印象として、「個人」対「組織」という対立軸はどの作品でも重要なファクターの一つになっているように思う。
 「個人」から発する感情・思想と、対立する「システム」のスタンスがぶつかり合って、相剋の中で主人公は悩む。悩みながら、答えは結局折衷的なものになり、明確な結論は出されない。最終的に主人公が選ぶのは、巨大な枠組み(国であり、軍であり)ではなく、より小さなサークル(戦友、家族)である。そこに「思想」が入り込む余地はない。作中で提示される思想が時に薄っぺらく感じられる(視聴者にも、主人公にも)のは、結局作中人物は思想によって動くのではなく、感情によって動くからなのだ、と。「仲間のため」「友人のため」「恋人のため」 これらの感情に、所謂「綺麗事」の思想が乗っかって、物語は幕を閉じる。

 蒙を啓かれるような鮮烈な思想やテーマは『ローレライ』にはない。窮極的なところで、お題目は全てお題目で、話の帰結するところもやっぱり想像の域を出ない。重たい思想やテーマを求める人には、だからこの作品はお薦めできない。

 上の方で触れた「ガンダムテンプレート」が好きな人、その人にこそお勧めの一冊。
「あー、そろそろガンダムの新シリーズみたいなぁ」
 そんなことをふと思うことがある人は、一読の価値がある。少なくとも丸二日、余剰の時間全てを注ぎ込むに足るだけの面白さを備えている。盛り上げる所はきっちり盛り上げる。明らかに泣かせに掛かっていると分かっていて涙腺が緩む場面もたくさんある。
 
 テンプレートの威力を知り尽くして、きっちりツボに当ててくるプロの作品。

 だらだら書いてきたけれど、言いたいことはようするに、「凄く面白かった」ということ。

終戦のローレライ 上
福井 晴敏

講談社
2002-12-10
売り上げランキング 6,970
おすすめ平均


Amazonで詳しく見る
   by G-Tools


終戦のローレライ 下
福井 晴敏

講談社
2002-12-10
売り上げランキング 761

Amazonで詳しく見る
   by G-Tools


スポンサーサイト



Comment

Post a Comment









管理者にだけ表示を許可

Trackback

http://pedantic.blog53.fc2.com/tb.php/25-cfb61f2c

衒学仮象 2nd Home | Page Top▲

Next door
New>> ブレイドマイン 第3回更新
old>> eastern youth
ブログ内検索
RSSフィード